長崎街道

田代宿へ
~交通都市を活かした発展~

  佐賀県鳥栖市。鳥栖ジャンクションで長崎自動車道と九州自動車道が交差し、JR鹿児島本線と長崎本線は鳥栖駅で交差する交通の要衝として栄えるこの街は、かつて様々な商業が発展した街でした。
所々にこうした古い商家が点在
▲所々にこうした古い商家が点在

  江戸時代、田代(たじろ)と呼ばれた現在の鳥栖市の東半部と隣の三養基郡基山町辺りは、対馬を本土とする飛び地で統治されていました。その当時より長崎街道と薩摩街道の分岐点として多くの人が行き交うことから田代宿が置かれ、なかでも田代町と呼ばれた昌元寺町、新町、上町、下町、外町の五町には荒木屋・長崎屋・竹屋など、多くの旅籠屋(はたごや)が並んでいたそうです。また、蝋(ろう)屋、油屋、酒屋などいろいろな店が軒を連ね、街はいつも賑やかだったといいます。そんな田代の地に、江戸時代中期に起きたのが、くすりを作って各家庭へ預けて商売する「配置売薬」でした。

長崎か移動から前方右に久光製薬を望む
▲長崎か移動から前方右に久光製薬を望む

  『田代売薬』と呼ばれたそのくすり産業が、なぜ田代の地で生まれたのかというと、田代が交通の要衝であり、宿場町でもあったこと、対馬本藩から離れていたこと、先に売薬を始めていた富山の売薬人たちが田代へも行商へ入っていたことなどから、往来する人や物から豊富な情報や技術を得たり、代官による統治の統制力の緩さもあったり、富山売薬の実績を認識していたりと、いくつかの要因が絡み合って、商人や農村以外に住む者たちの意識が売薬へと傾いていくこととなりました。田代を出て、他藩への販路を開拓して行ったことで、九州一円はもとより、中国・四国・近畿地方にまで行商圏を拡げ発展していきます。やがて田代売薬は富山、大和、近江売薬と並んで、四大売薬のひとつと位置づけられることになります。
  売薬の発展の裏にはこのような経緯があったのです。鳥栖市にある『久光製薬』は、その製薬業の歴史を物語る大企業であり、薬が今でも鳥栖の主力産業のひとつであることを示しているともいえます。

中冨記念くすり博物館
▲中冨記念くすり博物館

2階では田代売薬についての展示がされている
▲2階では田代売薬についての展示がされている

  西日本地区では唯一という薬の博物館があるのも、田代宿のあった鳥栖市です。『中冨記念くすり博物館』は、田代の売薬人の行商衣装や伝統的な製薬の道具、薬の看板など、田代売薬の歴史を物語る数々の資料、そして、世界と日本の薬の歴史に触れることのできる珍しい博物館です。敷地内にはハーブや薬草、薬木が350種余り植えられた植物園も併設されています。人の歴史と共に歩んできた薬の今昔、そしてその未来をも楽しみながら学べるくすり博物館は、家族連れだけでなく、密かに人気のデートスポットにもなっているそうです。

  私たちの身近にとても関係のある薬。田代宿を通じ、長崎街道を通って九州一円から日本中に渡ったということを考えると、感慨深いものがあります。今もなお交通の要衝として発展を続ける鳥栖だからこその歴史の必然だったのかもしれませんね。

次は、轟木宿へまいります。


長崎街道を歩こう!

【田代宿】
○江戸時代の国名/肥前国
○現在地/佐賀県鳥栖市田代新町、田代昌町、田代上町、田代大官町(昔の下町)、田代外町
○アクセス/
  電車…JR長崎本線、鹿児島本線鳥栖駅からタクシー利用で7分
  電車…JR鹿児島本線田代駅から、徒歩10分
  車…九州自動車道・長崎自動車道鳥栖ICから車で3分
○まつり/鳥栖山笠(夏休み最初の土日)、まつり鳥栖(7月最終日曜日)、村田浮立(10月中旬)、長崎街道まつり(10月下旬)、四阿屋神社の御田舞(10月下旬)、とす弥生まつり(3月最終日曜日)

【中冨記念くすり博物館】
○所在/佐賀県鳥栖市神辺町288-1
○開館時間/10:00~17:00(入館16:30まで)
○入館料/大人300円 高校・大学200円 小・中学生100円(団体20名以上の場合 大人200円 高校・大学100円 小・中学生50円)
○休み/月曜日(祝日の場合は翌日・年末年始
○駐車場/普通車20台 大型バス3台
○お問い合わせ/中冨記念館くすり博物館 TEL/0942-84-3334
○アクセス/
  電車…JR長崎本線、鹿児島本線鳥栖駅から、西鉄バスJR弥生が丘駅行き乗車。バス停中冨記念くすり博物館入口下車徒歩2分
  電車…JR長崎本線、鹿児島本線鳥栖駅から、タクシー利用で7分
  車…九州自動車道・長崎自動車道鳥栖ICから車で3分

http://www.hisamitsu.co.jp/syakai/kusuri/

【参考】
社団法人 佐賀県観光連盟HP http://www.asobo-saga.jp/
「街道ばゆく」HP http://www.wakuwaku-ogi.com/kaidou/

【写真&資料】
中冨記念くすり博物館
「街道ばゆく」HP 写真提供 城島敏明

【協力】
久光製薬株式会社(鳥栖市田代大官町408)  http://www.hisamitsu.co.jp/